9人委員会インタビュー
株式会社Be-Jin代表取締役
一般社団法人 日本研修講師育成協会 副理事長
石川利江さん

女性が幸せになる課題の発見へ。

UP DATE _ 2016.01.12

航空会社で感じた違和感

 中学生の頃から憧れ目指した航空会社に入社した喜びは忘れられません。厳しいトレーニングを受けて客室乗務員となり、半年間の国内線フライトを経て、その後国際線の第一期生となりました。夢中で仕事をするうちにチーフ(客室責任者)として、政府チャーターフライトなどをはじめ、多くのVIPフライトを担当させていただく立場になっていきました。日本の航空会社のブランドを背負い、一瞬たりとも気の抜けない緊張感の高い勤務でしたが、やりがいは本当に大きかった。

 また、仕事の現場で新人を教えるインストラクターも務めながら、キャリアを重ねていきましたが、その一方で、CAという女性ばかりの世界独特の息苦しさも感じるようになってきたのですね。もちろん業務中はみな完璧に仕事をし責任を果たしますが、ストレスが大きい仕事でもあり、やはり目には見えない嫉妬や自分の評価への不満、仲間とのコミュニケーションの行き違いなどが幾重にも重なり、私はいつのまにか違和感を感じるようになっていました。で、辞めました(笑) 。もっと頑張ればなんとかなるかも知れない気持ちもあり、辞めるのはもったいないと周囲からも言われつつ、私は仕切り直したくてアメリカで過ごすことに決めました。

 そんな年月のある日、目に飛び込んできた求人広告。日本で35年ぶりに立ち上がった新規の航空会社スカイマークが日本での立ち上げのために社員を募集するというのですね。新鮮な印象を感じて応募し、無事採用され、まだ日本では前例のない「低価格でカジュアルな航空会社」へ向けて、客室乗務員の職務規定やマニュアルなどの作成、職務規定の構築などに奔走します。会社が示した企業イメージは「スニーカー」。コストを削減し、しかも納得できるサービスを実現するにはどうすればいいのか。私は自分の中にある「CA」像を壊すことから発想することにしたのですね。

しがみついている価値を捨ててみよう

 大手航空会社勤務で私が学んだのは、世界に通じるきめ細やかな接客でした。隙のないユニフォーム姿、エレガントなマナー、飲み物や食事の行き届いたサービスなど、それは本当に高い評価を得ていましたし、安全安心への厳しいトレーニングも積み、私たちは世界一流の水準に届くようにと努力を重ねる日々でした。それが身に染み込んでいたと思います。

 しかし、今度はまったく異なった「スニーカー」という価値観です。その本質は何かを私はとことん考えていきました。そうして次々と提案を始めていきました。まず機内の掃除を客室乗務員が自ら行う、新聞やイヤホンの配布はお客さま全員ではなくご希望の方だけに、ドリンクはペットボトルをお渡ししカートでのサービスはやめる、ブランケットやスリッパもお声がけいただければお届けする、ユニフォームもカジュアルに親しみやすくなどなどコスト削減を徹底しました。もちろん笑顔は大サービスです(笑)

 その一方でお客さまのご心配を避けるために、もっとも重要である安心安全へのアピールを見える化し「赤十字の救急法救急員」の認定資格をCA全員が取得し、胸元に表示しました。こうしたさまざまな取り組みによって国土交通省からの認可取得に成功することが出来ました。

 実現は本当に嬉しいことでしたし、私はこの体験を経て「視点を変える」という新しい考え方を自分の中に取り込むことが出来たと思います。既存のもの、既存の価値観、世の中や会社はいまの状態が当たり前で、私一人が声を上げても何も変わらないという受け身の気持ち、それは違うよと。視点を変え、自分が本当に望むことをしっかり確かめたら、主張したり行動したりしていけばいいと確信したのですね。それが、さらに私の人生を大きく引っ張っていく力になりました。

「私はどう変化したいか」と先を見る

 私が妊娠した時には、CAが妊娠したら乗務停止、無給という決まりがありました。でも実際には地上勤務できる仕事も数多くあります。私はその点を会社に申し入れ、交渉して妊娠8ヶ月目まで地上での仕事を続けました。出産後も交渉して、まず一般のCAとして職場復帰し、子どもが保育園で落ち着いてから役職に復帰しています。前例はなくても、自分がどのように働きたいか、役立てるか、きちんと伝えれば分かってもらえることを体験してきました。

 その後独立し、研修や講演を通して多くの女性たちにお目にかかってきましたが、まず一番にお伝えしたいことは、視点を変えて現状を眺めて欲しいということ。例えば今、子育てが大変で一日3時間しか働けないとしても、その3時間は自分を取り戻せる時間だと考えてみます。2,3年後に何か資格を取ると決めてランチタイムに本を開くとか、キャリアを繋ぐ方法を模索するとか、時間を楽しく活かしていくことです。私は、女性が子育てと仕事の両方を手にする時代が普通になると応援し続けていますが、やり方は人それぞれでも、「私はこうなりたい」と想いが決まれば行動が出来るようになるのですね。

 人付き合いの難しさを感じる場合もあるかもしれませんね。私は「ひらめき財団」という面白い団体にも参加しているのですが、ここでは、例えば「お父さん脳」「お母さん脳」「子ども脳」などのように、人間には脳に由来する行動や発言のパターンがあることを研究しています。自分はお父さん脳、苦手なあの人はお母さん脳、と把握できると不思議なことに、はは~んと許せたりします(笑) 。「大切なことは、自分とは違う「相手」を理解することです。」 働くママたちの苦労や、現在の閉塞感を一緒に乗り越えて行きたい。それが私の熱い仕事の原動力です。

石川 利江/Toshie Ishikawa
株式会社Be-Jin代表取締役 一般社団法人 日本研修講師育成協会 副理事長

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